著者:佐藤アキヒト
出版社:drap COMICS DX


攻:北條(右側金髪)/受:左側黒髪眼鏡)

『学生運動渦巻く、激動の時代。そんな昭和の折に、一人葛藤する男ーーー神谷は、周りの喧騒とは別の問題を心に秘めていた。それは、学友である北條に道ならぬ恋心を抱いているということ・・・そんなある日、北條のことを思い浮かべながら自慰に耽っているところを本人に目撃されてしまいーーー?』



学生運動が残る時代を舞台にした珍しい作品。ただし、その特色に絡めた恋愛なのかと思えばそうでもなくがっかり。

早い段階で両肩想いだった攻と受はくっつくし、かと思えばいちゃつく描写もそこそこに離れ離れになっちゃうし、急に2年後に時間は飛んでしまうしで、どの場面も情報量が追い付かずさくさく進むだけで読みごたえがなかった。
後半はただただ二人のいちゃつきだけで、一通り物語の節目を越えた後はだらだらとその後の二人を見せられている感じで結局この漫画のピークはどこだったのかよくわからなかった。



ーーーーーーーーーーーーーキリトリ線ーーーーーーーーーーーーー

以下より下からはネタバレを含む
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ポイントである学生運動も攻が逮捕されるキッカケとして使われていただけで肝心の運動内容やそれぞれの主張なんかはない。
単純に作者は「学生運動」という文化に興味があるんだと思う。漫画の最後に学生運動に影響のある井伏樽二の歓酒の書き下し文や、それに絡めて寺山修司の言葉を添えているし、他にも参考にした文献や映画をあげており、たくさん調べて勉強したんだなと感じられる。あとがきに”先達の言葉へのオマージュ”だと書いてあるが、その割には薄かったんじゃないかと思う。
激動の時代だからこそ、もっと運動の過激さとか、同性愛に対しての禁忌さが欲しかった。ただ警察に捕まっただけでさくっと2年後に話が飛んでしまうのはあまりにもあっけなさすぎる。BLにする必要があったのかどうか・・・恋愛漫画としても文学書としても浅すぎて中途半端な結果になっていると思う。

それぞれのナレーション部分もかなり文学的な表現で書かれてあり、少し小説を読んでいるような感覚になる。普段漫画では味わえない言葉のチョイスが新鮮な分、遠回しでそれぞれの気持ちがわかりにくくすんなり入ってこないのは難点だった。

攻はハーフで見た目も蒼眼でガタイもいい、そんな彼を異端な者として区別する時代に受は気にも留めず自分のテリトリーに招き入れたところから二人の関係は始まる。
私は最後までこの受のキャラクターがつかめずに終わってしまった。
受はいわゆる頭が回るタイプでしっかりしてるイメージ。自然とリーダーになってしまうようなタイプ。でも攻が警察に捕まってしまった時なんかはただただ悔しがるだけで、捕まったのは自分のせいなんじゃないかってうじうじしてるの。恋人が急にいなくなり混乱するのもどうしようもない気持ちになるのも理解できるが、あまりにも何もしない、何も言わない、どう考えているかの描写もない。攻の過去回想シーンに出てくる受とはなんだかキャラが違う感じがする。

そもそも攻が捕まり受がショックを受けたこの場面から急に2年後に話は飛ぶので、受がその間なにを思ったのか、その後どうしたのかがわからない。わかることは2年間拘留されていた攻に一度も面会に行かなかったことと、攻とルームシェアしていた寮を出ていったということ。
出ていった理由は攻のいない部屋に一人でいるのは辛いからというもの。寂しいのはわかるが結構自分本位なんだなと。そう思った理由は他にもあって、受は攻の出所時に迎えに行くんだけど、2年間ただ悶々と自問自答し面会に行かなかったくせに「まだ攻は自分のことを愛してくれているだろうか」って考えてて。え、そこなの?都合よすぎるだろうってツッコんでしまうのは私だけだろうか?受がこの空白の期間悩んででた答えが「俺がいかに攻を愛し求めているかということ」らしい。いや、なら面会行けよ!もっとできることあっただろうが!w
自分は何もしていない(できなかったとしても)のに相手には求めて与えられてばかりなのはどうなんだろうか?この受のスタイルは私のタイプではなかった。


受も攻ももっといろんな分野で思うところがあるはずなのに、それがない。人種差別や思想について、同性愛に対してとか。それくらいの出来事は周りでたくさん起こっているのに実際それについてはほとんどスルーされておりお互いの想いについてのみ。もっと描写するべきものはたくさんあったんじゃないかな?学生運動というジャンルを絡めるのも、この時代を選択したのも、このBL漫画で表現するにはテーマが大きすぎたように思う。