著者:松本ミーコハウス
出版社:大洋図書(HertZ)

★★★

攻:松原(黒髪ロング)/受:一ノ瀬(金髪くるくる)

『内気な優等生の一ノ瀬司は、密かに同級生の松原千歳に想いを寄せいていた。だが、ある日、その気持ちを本人に見破られ、無理やり告白させられてしまう。松原のアパートに連れていかれた一ノ瀬は、言われるままに松原と体を重ね・・・
どうしようもないほどのさみしさを抱えた少年たちの行く先は?』



最初は、貞操観念が低い男子の合体中心の話しなのかなぁと思っていたんだけど、徐々にこの作品の闇というかいびつな部分が出てき始める。登場してくる人物がそれぞれになにかしらの問題を抱えていて、それなりに欠けている。
終始ヤってるだけの二人だけど、その背景を見ると切なくなる。

出会いはとても急で、説明もそこそこに唐突に関係は始まります。攻の思いつきというか単純にノリで始まった関係。受は元々攻のことを好きだったので、いささか雑な扱いだし恋人同士なんて関係ではないけれど受け入れます。

なんで今まで関わりの一切なかった受に対して、興味本位とはいえ男だし、ここまでべったりになったのかは謎。単純に使いやすくて、イジメがいがあって、身体の相性もいいし、結局暇つぶしになるからって理由なんだろうけど。
攻は笑顔で結構ひどいことを平気で言います。なんちゃってではなく本当に相手のこと考えてない感じ。ぱっとやりたいことをただやってるだけだから悪意とかはない。自然と俺様。
自分から愛されてないのに身体だけいいようにされて、それでも従順にいうことをきいて、そんな受が可哀想すぎて、行為中はしょっちゅうそんな受を見て笑ってます。

受はひたすら攻を受け止めて、嫌とは言わないし、むしろ自分なんかを構ってくれることに嬉しさを感じてるし。そんな盲目な感じが純粋そうでもありちょっと怖くもある。受も受でどこか欠けている部分があるからこその屈折した愛というか。そもそも攻のようなタイプを好きになる時点でやっぱりちょっと変わってるし。そもそもなんで好きになったのかはこちらも描かれていないので謎。

そんななんでも受け入れてくれる、なにをしても変わらず愛してくれる受に、攻も気づかないうちに
惹かれていくようになります。



ーーーーーーーーーーーーーキリトリ線ーーーーーーーーーーーーー

以下より下からはネタバレを含む
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攻も受も互いに家庭環境がよろしくなくて、攻の両親は別居状態で父親だけなんだけど、その父親はほぼネグレクト状態でいつも一人ぼっち。受は精神的に不安定な母親が一人いてその存在がストレス。
さらに、攻は初体験の女性との過去の出来事で。受は自分の母親の異常なまでの執着で。それぞれ女性という生き物に対して扱いずらさというかあまりいい印象を持っていない。
ちなみに作中には普通に女性との絡みも出てきます。

余談だけど、受は攻に対してまじで自分の意思とか言わないんだけど、なんとなくDV彼氏と付き合ってる女性みたいな感じがする。逆らわないし、攻にひどく扱われても芯の部分は自分のことを愛してくれてるんだろうなって、もしくはこれから愛してくれるんじゃないかって信じ続けてる感じ。だからどこまでも耐えれてしまう。
女性っぽいって言い方が合ってるかわからないけど、一般的な男らしいっていうのとはかなりかけ離れてる。内気というか陰キャっていうのも当てはまらないし。攻の弱い部分を知ってからはなんか母性みたいなの出てきてるし。うん。女性的な雰囲気がするかな。

夏休みを使って二人は逃避行という名目でちょっとした旅行に行くんだけど、これが終わったら攻は施設に入ると決めています。完全に父親から捨てられたらそうしようと考えてたみたい。そんなことを子供に考えさせてんじゃないよ、クソ親!
そんなこともあって、攻は旅行中いつも通りひょうひょうとしているように見えてたまにセンチメンタルになったりする。ちょっと不安定になってる攻を受は理由も聞かずやっぱり受け止めます。その内、攻の中で今までに経験しなかった安心感だったり「好き」っていう感情が芽生えてきて、でもそんな感情知らないから「お前ちょっと怖いな」って表現したりするの。すごい素直な感想だし戸惑ってるのがよくわかる台詞。
だんだんその気持ちが大きくなって核心的なものになってきてから、攻はハマる前に離れようとするのよ。受が相変わらず自分のことを好きで求めてくることも「ただヤりたがって狂ってろ」って。「考えたりするお前は嫌い」って。そこに好きって感情はいらないって感じで。性欲処理的な行為のままでいい。どうしていいかわからないんだろうなって思った。すごく切ない。
でもそんな攻も、旅行を終わらせようとした時にそのどうしたらいいかわからない感情を受に伝えるんだよ。「自白する犯罪者ってこういう気持ちなんだろうな」って自嘲しながら。不器用すぎる。

旅行から帰ってきた後も平穏とはいかず、受の母親が暴走し受を殺そうとします。それに抵抗して母親を傷つけてしまうんだけど結果的には無事。とはいえ、それがきっかけか元々限界だったのか、母親の精神がさらに退化してしまい、更には受のことも自分の子供として認識できない状態になってしまう。

ようやく気持ちが通じ合って本当の意味で結ばれた二人なのに、お互いこれからの生活や未来がどうなるのかわからない。今までにもまして不安定で困難な先行きで、誰にも自分たちでさえも想像できない状態なんだけど。でも最後は二人して幸せそうに笑って終わるの。もう自分たちはゆるがない存在を見つけたから、それで不安はない。って感じで。
その終わり方がとても印象的で。きれいにオチをつけることが全てではないんだなぁって。どうみてもはたから見たら悲惨で大変そうなのに二人には二人の幸せの形があるんだなって思わせてくれる作品。

最後に大人になった二人のお話しが気持ち程度にあるんだけど、あぁ、やっぱりそんな感じでこれからも二人で生きていくんだねって感じの雰囲気で終わります。続きが読みたいわけでもないし、これはこれ。って感じですっきり読み終わる。


病み系・俺様攻め・不幸少年とか好きな人向け。

作中に出てくる一般的には大人といわれる人たちはみんなどこか冷めているし二人に興味がない。いじめとか暴力はないけど淡々と痛烈で寂しい社会。そんな世界の中で二人は子供ながらに二人ならではの答えを出して生きていく。めちゃめちゃ重いわけではないけど何度も何度も読んでその異様な世界観を体感していくような作品。